働きやすい職場、上司や同僚との健全な人間関係は、日本の経済発展には重要な要素です。
これが欠けていると労働者は業務において本来の専門性を発揮できず、企業の生産性は上がることはありません。結果的に日本経済全体に影響を及ぼすこととなります。労働者にとっても、上司や会社から理不尽な要求や仕事内容を逸した指示など、いわゆるパワハラによって職場を離れることを余儀なくされ、その後のキャリアが大きく狂わされるというケースも多々あります。
そんなパワハラの防止を後押しする関連法案が、今年5月29日参院本会議で可決・成立しました。
今回はそんな「パワハラ」をテーマに、今後日本の職場はどう変わるのかが分かるニュース記事をご紹介いたします。
朝日新聞デジタルの記事によれば、2018年に全国の労働局に寄せられたパワハラに関する相談「いじめ・嫌がらせ」は、8万2797件で相談内容別で7年連続の最多になったそうです。これを受けて厚労省は「パワハラへの社会的関心が高まり、相談に訪れる被害者が増えた」と分析しています。
これは、個々がより働きやすい環境を求めている結果であると同時に、これまでの日本の職場ではいじめ・嫌がらせといった仕事の専門性とは直接関係のない対人関係によって労働者の生産性を下げていると予測できます。
また、昨年5月30日付の日本経済新聞の記事によれば、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」などと定義しており、今回のパワハラ防止法成立により、企業は従業員のパワハラを禁止する条項を就業規則に追記したり、パワハラに関する相談者のプライバシー保護を徹底したりすることが義務化されると報じています。
義務化をしたにも関わらずパワハラが常態化し行政指導をしても改善が見られない場合には企業名が公表されるようになります。
これにより企業は「知らなかった」や「指導の一環である」など無責任な発言はできなくなります。従業員の人間関係や指導方法に更に踏み込み、個々の従業員が実力相当の生産性を上げるための職場づくりが求められていくことになります。
では、なぜパワハラを法律で禁止しなければならないほど社会に蔓延しているのでしょうか。ニューズウィーク日本版の記事では、パワハラが起きる3つの原因を紹介しています。
【パワハラが起きる3つの原因】
1、パワハラを行う個人の経験や性格に起因するケース
パワハラを行う個人も過去に親や上司から厳しく躾けられた経験から、部下の仕事や考え方が甘いと感じてしまい、自分が経験したことと同じことを部下にも求める場合など。
2、組織が持つ企業文化や風土に起因するケース
新人や若手社員に対して、夜間行進、登山、名刺獲得競争などの共通体験を強要する文化や風土を持つ企業など。
3、人事制度などの仕組みに起因するケース
人事制度上成果を厳しく求められ、部下に対して無理難題と思われる指示を出す場合など。
今回のパワハラ防止法により、上記2,3については企業の監視下で徐々に改善がされていくことが期待できると思います。1は、個人の経験に起因するところですので簡単ではありません。しかしながら、2,3が改善されていく前提であれば、今後パワハラの少ない働きやすい職場環境でキャリアを積むことができる社員が増え、結果として1のケースも減少してくるでしょう。
パワハラ防止法が施行され、企業が働きやすい職場や人間関係を提供できるようになれば、労働者は今までのように本来の仕事とは直接関係のないところでの精神的負担が軽減されるはずです。そうなれば、一人ひとりが本来の仕事により専念したり、会社に対し意見したりできるようになり、結果として企業の生産性が上がってくることが期待できます。
成果が出るまではもう少し時間がかかるかもしれませんが、今回のパワハラ防止法は日本の経済発展のひとつのドライバーになると思います。
参考記事:
1.『パワハラの労働相談、7年連続で最多 18年度8万件超』朝日新聞デジタル、2019年6月26日 https://www.asahi.com/articles/ASM6V3Q73M6VULFA00J.html
2.『パワハラ行為を明示し抑止 関連法成立、悪質企業公表へ』日本経済新聞、2019年5月30日 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO45438690Z20C19A5EE8000/
3.『パワハラが起こる3つの原因 日本企業は変われるか』ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/matsuoka/2019/06/3-1_1.php